「定年後、給料はいくら下がるのだろう」「再雇用されても、今と同じ生活を続けられるだろうか」。50代になると、そんな不安が少しずつ現実味を帯びてきます。
定年後も働く人は増えていますが、再雇用によって年収が大きく下がるケースは少なくありません。一方で、働く高齢者を支援する公的制度や年金の仕組みも見直されています。
この記事では、定年再雇用による給与減少の実態と2026年度の制度を確認しながら、50代から取り組める家計の見直しや資産形成について紹介します。
定年後の給与はどれくらい下がる?再雇用の収入変化

60歳で定年を迎えた後も、同じ会社やグループ会社で働き続ける人は多くいます。しかし、正社員から嘱託社員や契約社員などへ雇用形態が変わることで、給与や賞与が減る場合があります。
パーソル総合研究所が2021年に公表した調査では、定年後再雇用者の年収は定年前と比較して平均44.3%減少していました。約半数が年収50%以上の減少を経験しています。
定年再雇用後の年収変化を比較
以下は、同調査における定年後の年収変化を整理したものです。
| 年収の変化 | 回答割合 |
|---|---|
| 定年前より上昇 | 2.2% |
| ほぼ変化なし | 8.0% |
| 約10%減 | 4.4% |
| 約20%減 | 6.3% |
| 約30%減 | 14.0% |
| 約40%減 | 12.9% |
| 約50%減 | 22.5% |
| 50%超の減少 | 27.6% |
| 回答したくない | 2.2% |
特に目立つのが、年収が約50%減少した人と、それ以上減少した人の割合です。合わせて約半数に達しています。
ただし、この調査結果はすべての会社に当てはまるわけではありません。近年は定年延長や給与制度の見直しも進んでいるため、自分の勤務先の条件を確認することが重要です。
月収40万円だった人の給与はどうなる?
例えば、定年前の月収が40万円で、再雇用後に給与が60%になると仮定すると、月収は24万円です。
| 比較項目 | 定年前 | 再雇用後 |
|---|---|---|
| 月収(額面) | 40万円 | 24万円 |
| 給与水準 | 100% | 60% |
| 月額の減少 | ― | 16万円 |
| 12か月の給与減少額 | ― | 192万円 |
賞与も減額・廃止された場合には、年収の差はさらに広がります。また、定年直後は前年の所得をもとに計算される住民税などの影響で、手取りの減少を大きく感じることもあります。
給与明細だけではなく、年間の給与・賞与と手取り額を比較することが大切です。
50代から60代に訪れる2つの収入の壁
会社によっては、60歳の定年より前に役職定年を迎えることがあります。役職手当がなくなるなどして、50代後半から収入が段階的に減る可能性もあります。
| 年齢の目安 | 主な変化 |
|---|---|
| 55歳前後 | 役職定年や役職手当の見直しがある企業も |
| 60歳 | 定年退職・再雇用による契約変更 |
| 65歳 | 老齢年金の原則的な受給開始年齢 |
| 70歳 | 企業には70歳までの就業確保措置の努力義務 |
現在、企業には65歳までの雇用確保措置が義務付けられています。一方、70歳までの就業確保措置は努力義務であり、70歳まで必ず同じ会社に雇用されるわけではありません。
給与減少を補う公的給付金と年金制度

再雇用によって給与が下がった場合、一定の条件を満たせば雇用保険から給付を受けられます。また、働きながら年金を受け取る場合の支給停止基準も2026年4月から見直されました。
1. 高年齢雇用継続給付|給与の減少を補う
高年齢雇用継続給付は、原則として60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者で、60歳到達時等と比較して賃金が75%未満に低下した人を支援する制度です。
2025年4月1日から制度が改正され、新たに対象となる人の給付率は、従来の最大15%から最大10%へ引き下げられました。
| 対象区分 | 給付率の上限 |
|---|---|
| 2025年3月以前に60歳到達等した一定の人 | 最大15% |
| 2025年4月以降に60歳到達等した人 | 最大10% |
例えば、月収40万円から24万円に下がった場合、賃金の低下率は60%です。新制度の最大給付率10%が適用される条件であれば、給付額は月2万4,000円となります。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 再雇用後の給与 | 240,000円 |
| 高年齢雇用継続給付 | 24,000円 |
| 合計 | 264,000円 |
なお、受給には雇用保険の被保険者期間が原則5年以上あることなどの条件があります。申請は原則として勤務先を通じてハローワークへ行います。
2. 在職老齢年金|2026年度は65万円が基準に
厚生年金に加入して働きながら老齢厚生年金を受給する場合、給与と年金の合計額によって年金の一部または全部が支給停止される仕組みがあります。これが「在職老齢年金」です。
2026年4月から支給停止の基準額が引き上げられました。
| 年度 | 支給停止の基準額 |
|---|---|
| 2025年度 | 月額51万円 |
| 2026年度 | 月額65万円 |
2026年度は、老齢厚生年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円以下であれば、在職老齢年金による支給停止はありません。
65万円を超えた場合は、原則として超過額の2分の1に相当する金額が老齢厚生年金から支給停止されます。ただし、支給停止額は老齢厚生年金の額が上限です。
ここでいう総報酬月額相当額は、標準報酬月額と直近1年間の標準賞与額を12で割った金額の合計です。老齢基礎年金はこの支給停止の対象になりません。
3. 60歳から年金を受け取れるとは限らない
老齢基礎年金と老齢厚生年金の原則的な受給開始年齢は65歳です。生年月日などによって「特別支給の老齢厚生年金」を受けられる人もいますが、現在の50代の人は通常その対象ではありません。
また、高年齢雇用継続給付と老齢厚生年金を同時に受ける場合は、別途、年金の支給調整が行われることがあります。
将来の年金額は、日本年金機構の「ねんきんネット」などで確認できます。50代のうちに一度試算しておくとよいでしょう。
50代から始めるマネー準備術3選
再雇用後の収入減少に備えるためには、資産を増やすことだけでなく、毎月の支出を見直すことも重要です。定年前から少しずつ生活費を調整しておけば、収入が下がった後も家計の変化に対応しやすくなります。
1. 固定費を見直して家計を軽くする
まず見直したいのが、通信費、保険料、住宅費、サブスクリプションサービスなどの固定費です。
子どもの独立などによって家族構成が変わった場合は、必要な保障や生活費も変化する可能性があります。現在の契約内容を確認してみましょう。
| 見直し項目 | 毎月の削減例 |
|---|---|
| 通信費 | 4,000円 |
| 保険料 | 5,000円 |
| サブスクリプション | 2,000円 |
| 光熱費 | 3,000円 |
| 合計 | 14,000円 |
仮に毎月1万4,000円を削減できれば、年間では16万8,000円になります。
ただし、保険の解約によって必要な保障まで失わないよう注意が必要です。住宅ローンの繰り上げ返済についても、手元に残す現金とのバランスを考えましょう。
2. NISAを活用した無理のない資産形成
NISAは、一定の条件で投資によって得られる利益が非課税になる制度です。2024年からの制度では、非課税保有期間が無期限化され、年間投資枠も拡大されました。
| 項目 | 金額・内容 |
|---|---|
| つみたて投資枠 | 年間120万円 |
| 成長投資枠 | 年間240万円 |
| 年間投資枠の合計 | 360万円 |
| 非課税保有限度額 | 合計1,800万円 |
| 非課税保有期間 | 無期限 |
ただし、NISAは利益を保証する制度ではありません。株式や投資信託には元本割れの可能性があります。また、NISAで購入できる商品には制度上の条件があります。
定年が近い50代の場合は、数年以内に使う予定のお金を預貯金などで確保したうえで、余裕資金の範囲で投資を検討することが大切です。
3. 退職金の使い道を事前に決める
退職金は、定年後の生活を支える大切な資金です。まとまった金額を受け取ったからといって、すぐに大きな買い物や投資に回すのは慎重に判断したいところです。
まずは、退職金の手取り見込み額と、今後必要になる生活費を確認しましょう。
- 退職金の手取り見込み額を確認する。
- 年金受給開始までに必要な生活資金を計算する。
- 医療費や住宅修繕などへの備えを確保する。
- 住宅ローン返済と手元資金のバランスを比較する。
- 残った余裕資金について運用方法を検討する。
退職金の受け取り方や税金の扱いも、会社の制度や勤続年数などによって変わります。定年が近づいたら勤務先に確認しておきましょう。
再雇用後の家計はどう変わる?収支シミュレーション
定年後の家計を考える際には、月収だけでなく、税金や社会保険料を差し引いた手取り額と生活費を比較することが重要です。
次の表は、定年前の月収40万円、再雇用後の月収24万円を想定したモデルケースです。
| 項目 | 定年前 | 再雇用後 |
|---|---|---|
| 月収(額面) | 40万円 | 24万円 |
| 手取り(仮定) | 32万円 | 19万円 |
| 生活費 | 27万円 | 27万円 |
| 月間収支 | +5万円 | -8万円 |
| 生活費を5万円削減した場合 | ― | -3万円 |
この例では、再雇用後に生活費を変えなければ毎月8万円の赤字になります。支出を5万円減らしても月3万円の不足が残る計算です。
こうした不足分をどう補うかは、貯蓄額や働く期間、配偶者の収入、年金の受給見込みなどによって変わります。
定年後の生活費を一度試算しておくことで、毎月いくら準備すればよいのか、具体的な目標を考えやすくなります。
50代から始めるべきこと・避けたいこと
定年後の収入減少に備えるために、今からできることと、避けたい行動を整理してみましょう。
始めるべきこと
- 再雇用条件の確認:給与・賞与・勤務日数・仕事内容を勤務先に確認する。
- 年金見込額の確認:ねんきんネットなどを活用する。
- 固定費の見直し:通信費・保険料・住宅費などを整理する。
- 退職金の管理計画:使うお金と残すお金を分けて考える。
- 資産形成の検討:目的・期間・リスクに応じて投資を判断する。
避けたいこと
- 再雇用後も現在と同じ収入が続くと思い込む。
- 年金を60歳から必ず受け取れると考える。
- 退職金を一度に大きな買い物や投資に使う。
- 内容を十分に理解せず金融商品を購入する。
- 公的給付を長期間続く収入として家計に組み込む。
定年前から無理のない範囲で家計を調整しておけば、60代になってから急激に生活水準を変える負担も軽くできます。
まとめ|定年後の給与減少は50代から備えよう
定年再雇用では、給与や賞与が大きく変化する可能性があります。だからこそ、勤務先の再雇用条件を早めに確認し、定年後の生活費と手取り収入のバランスを考えておくことが重要です。
高年齢雇用継続給付や在職老齢年金などの制度もありますが、受給できる人や金額には条件があります。公的制度だけに頼らず、固定費の見直しや退職金の管理など、50代からできることを少しずつ進めていきましょう。
本記事のポイント3選
- 再雇用後の年収減少を把握する。2021年公表の調査では平均44.3%減。実際の条件は会社ごとに異なります。
- 公的制度を正しく理解する。高年齢雇用継続給付は対象者により最大10%または15%。在職老齢年金の2026年度の基準は月額65万円です。
- 50代から家計と資産を整理する。固定費の見直し、年金見込額の確認、退職金の管理を計画的に進めましょう。
よくある質問(Q&A)
Q1. 定年後の再雇用で給料は半分になりますか?
A. 必ず半分になるわけではありません。2021年公表のパーソル総合研究所の調査では平均44.3%減でしたが、企業や職種、雇用条件によって大きく異なります。
Q2. 高年齢雇用継続給付は誰でも受け取れますか?
A. いいえ。原則として60歳以上65歳未満の雇用保険の一般被保険者で、被保険者期間や賃金の低下率などの条件を満たす必要があります。
Q3. 再雇用後も働くと年金が減りますか?
A. 老齢厚生年金を受給しながら働く場合、2026年度は年金の基本月額と総報酬月額相当額の合計が65万円を超えると、一部または全部が支給停止される可能性があります。老齢基礎年金は対象外です。
Q4. 60歳から年金を受け取れますか?
A. 老齢年金の原則的な受給開始年齢は65歳です。繰上げ受給が可能な場合もありますが、減額が生涯続くなどの注意点があります。
Q5. 50代からNISAを始めても遅くありませんか?
A. 年齢だけで判断する必要はありません。ただし、数年以内に必要な生活費は預貯金などで確保し、投資は余裕資金の範囲で検討することが大切です。
Q6. 退職金で住宅ローンを一括返済した方がよいですか?
A. ローン金利、残りの返済期間、住宅ローン控除の有無、生活資金などによって判断が変わります。手元の現金が不足しないよう、複数の選択肢を比較しましょう。
参考・出典
- パーソル総合研究所|定年後再雇用者の年収・職務の変化
- 厚生労働省|高年齢雇用継続給付
- 日本年金機構|在職老齢年金制度の改正
- 日本年金機構|特別支給の老齢厚生年金
- 厚生労働省|高年齢者雇用対策
- 国税庁|NISA制度
※本記事は2026年11月時点の一般的な制度案内です。個別の受給条件、年金額、税金や資産運用については勤務先・年金事務所・ハローワーク・専門家などにご確認ください。


